執筆活動

« 人事戦略と公務員制度改革 「変革の時代の自治体人事政策2」 | 執筆活動Topへ | 自治体人事評価制度の課題と評価者研修1 「制度設計ができれば一段落?」 »

人事確保の戦略 「変革の時代の自治体人事政策3」

「地方自治職員研修」 2002年6月号、7月号掲載

 将来のビジョンを実現するには、その実現に貢献する人材をどのように獲得し、育成し、評価し、処遇していくか、その具体的な戦略が必要になる。自治体が今後、自らの手で戦略的な人事政策を構築するためには次の3つの視点が重要である。

  • 求める人材像を明らかにする
  • 必要な人材の構成を検討する
  • 貢献を引き出す仕組みをつくる

以下、これらの人事政策について述べることにする。

1 求める人材像を明らかにする

 旧自治省が「人材育成基本方針」の策定を通達したのは平成9年であった。同省の「策定指針」では「これからの時代に求められる職員像」(以下、「求める職員像」と記す。)を明らかにすることが重要であるとされ、その指針に沿って方針を策定した自治体は多い。
 しかし、その「求める職員像」の実現に向けた対策となると、ほとんどの自治体が研修の見直しや自己啓発の促進が中心で、十分な効果が得られているとは言いがたい状況にある。
「求める職員像」を明らかにすることは、職員にどうあって欲しいのか、という組織の期待を明らかにすることになる。したがって、その方針を示すだけでも意義があると言えるかもしれない。しかし、組織が職員への期待を示しただけで、そのためのサポートもシステムの見直しも不十分なものであれば、かえって職員の期待を裏切る結果になりかねない。
 本来、組織が「求める職員像」を明らかにする目的は、必要な人材の確保、育成に向けて、人事の諸システムを関連付け、効果的にその実現を図るためにある。したがって、「求める職員像」とは人事政策の達成すべき目標であり、戦略的な人材マネジメントの目指すべき到達点である。
今後は、教育研修のあり方といった狭い範囲の対策ではなく、採用、育成、評価、処遇の各システムとの整合性を図り、「求める職員増」の実現に向けた戦略を構築することが必要になる。そのためには、当面次のような活動が求められる。
 まず検討すべきことは、「人材育成基本方針」で掲げた「求める職員像」の見直しである。平成9年当時とは異なり、公務員を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。当時のままでよいのか検討が必要だ。
 次に、「求める職員像」を実現するために、人事制度のどの領域を改革すべきか再検討することが必要になる。
本来ならば、人事システム全般を視野に入れて、制度の見直しを進めることが理想である。しかし、総合的な対策に着手するには、長期的な構想を描き、組織を説得するだけのスキルとタイミングが必要となる。ときには焦点を絞り込み、次のような対策に優先的に取り組むことも必要だ。

  • 職別の役割や職責との整合性を確保する。
  • 人事考課システムの考課基準へ反映させる
  • 人材育成のためのキャリア形成システムを構築する

 特に“1”は重要である。自治体では、それぞれの職の役割や行動について、職員に明示している事例はきわめて少ない。「求める職員像」を職別の役割や行動のレベルまで具体化し、職員に周知徹底を図ることが望まれる。また、“2”の「考課基準」とは、人事考課を行う際に、評価のものさしとして使用する基準である。「求める職員像」を具体化して考課基準に組み入れ、職場における指導育成や職員の自己啓発を促すことが期待される。“3”の「キャリア形成」については、「求める職員像」に到達するために、職員にどのような経験を積ませるか、実現のプロセスを用意するものである。

2 必要な人材の組み合わせを検討する。

A) 人材の構成と任用形態

 自治体の採用計画は、不足する人材をそのときに応じて補充採用する方法が一般的であるが、「定員適正化計画」に従って計画的に採用している団体も多い。しかし、「定員適正化計画」の実態は"正職員抑制計画"であり、自治体の事務が今後も増大する中で、現在の正規職員数を増やさずにいかに抑制するかが焦点となっている。人員を抑制することは重要な経営施策であるが、マンパワーの量的統制、すなわち、"正職員数の枠は増やさない。臨時職員も極力抑制せよ。"というだけでは、施策の充実に結び付かない。重要なことは、仕事の質や量に応じた人材の確保と総人件費の抑制を両立させることである。
 仕事の質や量に応じた人材を確保するには、次の2つの視点が重要だ。

  • どのような貢献を行う人材がどの程度必要か
  • そのような人材をどうやって獲得又は育成するか

 “1”は、行政各分野における検討が基本になる。今後の施策を見通した上で、専門的な職務や定型的な事務の増大を予測し、それぞれの職務の特性に応じて、どのような能力のある人材がどの程度必要になるか検討する。そして、組織全体の中長期要員計画に反映させ、毎年の採用を計画的に行っていくのである。
 “2”は、“1”をもとに、外部から獲得するのか、内部で育成するのか、長期の任用なのか、短期の任用でよいのか、といった任用の方法や育成のシステムを決定する。外部から獲得するならば、該当する職務に適合した任用形態を決定し、計画的に採用を行っていく。また、内部で調達するならば、職務に応じた育成システムを検討することが必要になろう。
 次の表は、職務特性と任用形態の関係を整理したものである。専門的な職務の内容によっては外部から短期的に人材を調達する方が効果的であろうし、定型的な事務については、そのほとんどを臨時職員で対応していくことも考えられる。
 人材の組み合わせを考え、任用のあり方を方向づけることは重要な人事戦略である。今後は正規職員のみでなく、多様な任用形態を組み合わせることによって、総人件費の抑制を図ることも必要になる。行政各部門の主体的な検討をもとに、長期要員計画を策定し、人材と任用の効果的な組み合わせを実現することが期待される。

職務特性の分類と任用形態(参考)

政策と経営の高度な意思決定を担う職務
(経営幹部層)
政策の形成と主体的判断を伴う職務
(公務のプロ)
高度な専門的知識と技術を要する職務
(スペシャリスト)
日常的・定型的業務を主とする職務
(一般事務員)
特定領域に関する熟練技術を要する職務
(熟練作業員)
新卒採用の正職員
中途採用の正職員
任期付職員
再任用職員
嘱託職員
臨時職員(パート)
労働者派遣の活用
アウトソーシング

(注) ◎:最もよく適合する。 ○:適合する。

B) 長期要員計画の作成

長期要員計画は、(1)必要な人材の確保、(2)人件費の計画的抑制、(3)職員構成の見直し等を図るために、どのような人材を、いつまでに、どれだけ、どの任用形態で確保するか計画するものである。
将来における人件費の設定は、個人委託費や臨時職員の賃金を含めて目標額を定める。人材の確保は正規職員に限らない。正規職員を抑制し臨時職員を増やすことで人件費の上昇を抑えることも考えられるからである。また、職員構成を見直すには、管理職、専門職、一般事務職、熟練作業員等の職掌別構成のほか、正規採用、臨時採用等の任用形態別構成についても大枠の方針を設定した上で、計画を組むことが必要になる。
実際の長期要員計画の策定では、政策分野別に、将来必要となる職員数について、職掌別、任用形態別に積み上げた上で、人件費の目標額に収まるよう、確保すべき職員数、任用形態別の構成人数等を設定する。
計画の策定過程において、特に重要なポイントは、職掌別任用形態別に職員数を積み上げる際に、今後の事業計画と、事業を担う人材の質と量を具体的に想定できるかという点である。正規職員でありながら臨時職員でも可能な事務を担当するようなことにならないか、外部から人材を調達した方がコストは安くないかなど、任用形態のあり方を含めた検討が十分行われなければならない。
今後は、人事担当部門が各部門の実情を精査して、職員数を定める時代ではなくなる。各部門が主体となって人材の効率的な活用を検討し、計画的、効率的な行政経営を実現していかなければならない。各部門の長に経営者意識を植え付けていくことも重要な課題となるだろう。
長期要員計画では少なくても次の事項を明らかにする必要がある。
・ 人件費の目標額
・ 職掌別必要職員数の予測
・ 任用形態別職員数の予測
・ 任用形態の決定のための判断基準
・ 職員数の部局別配分計画
・ 中長期の職員採用計画
これらのうち、「職員数の部局別配分計画」については、職員定数との連動を図ることが必要になる。また今後は、部を単位にして職員数を配分し、課単位の職員数については部長が3ヵ年の実施計画にもとづいて配分するなど、部の責任において柔軟な運営ができるよう改めていくことも必要である。

3 貢献を引き出す仕組みをつくる

職員の貢献を引き出すには次の3つの視点が重要である。

A) 「個」を尊重し、個性を育てるシステムを構築する。

地方分権時代に入り、自治体でも職員の個性を生かすことが重要になってきた。どの部門でも通用する人材より、特定の職務でもよいから高度な専門性と適確な判断力を持つ人材が必要になってきたからだ。

単純作業や定型的な仕事では、個人の意欲を喚起しても特別な成果には結びつきにくい。ところが、環境が激しく変化して常に対応を図らねばならない職場では、独創性、革新性、判断力などの高度な能力が必要になる。個人の意欲や能力、あるいは使命感といったものが大きな意味を持ってくる。

また、職員の側にとっても、だれもが同じ人事を望んでいるとは限らない。個人個人に焦点を当てて、個性や意欲、能力を把握したうえで人材の活用を図ることが重要だ。
個を活かした人事をするには、職員を集団として扱う人事ではなく、個人の自律的な選択を基本に、個別に育成・配置するシステムを人事制度に組み入れていくことが必要になる。具体的には、進路選択制、専門職制度、自己申告制度、自主研究員制度、公募制などが求められる。
中でも、進路選択制や専門職制度は民間でも多数の事例があり、今後は自治体でも導入事例が増えるものと考えられる。自治体では、豊橋市の取り組みが参考になる。豊橋市では職員の自己選択を基本とした複線型人事制度の構築を目指し、すでに専門職制度の運用を開始している。筆者も制度構築にかかわった一人だが、人事担当職員の改革への意識は高く、多くの課題を乗り越えての導入であった。その点も参考になるだろう。
なお、「個」を尊重するといっても、自分のキャリアの形成については自分で責任を持つことが基本である。自治体はそういう人材をできるだけ支援するスタンスで取り組むことが大切である。

B) 人事の諸制度を連動させ、一貫性をもったシステムを構築する。

高度な専門的研修を受けさせた後に、研修とは関連のない部門に異動する。また、人事考課を実施するものの、その結果がほとんど活用されていない、など。人事諸制度間の連携が十分でないと、さまざまな不合理な問題が生じやすい。
人事制度間の矛盾や連携の問題を放置すると、人事施策の効果が半減するだけでなく、人事担当部門に対する職員の不信を増幅する。個別の問題点を拾い上げ、適時改善を図っていくことが大切だ。
また、公務員制度改革によって、地方公務員の処遇制度は能力主義へと大きく変わろうとしている。能力主義への転換は、評価システムや処遇システムばかりでなく、職階、採用、異動・配置、人材育成などの諸制度についても大きな改革を促すことが予測される。今後は、個別の問題のみでなく、公務員制度改革の方向を見定め、長期的なビジョンのもとに、体系的な人事制度の構築を計画的に実施していくことが必要だ。
人事施策の目的を最も効果的に達成するよう、人事諸制度を有機的に関連付け、連動させたシステムを「トータル人事システム」と言う。
「トータル人事システム」を構築するためには、次のような取り組みが必要である。

  • 長期的なビジョンをもとに、求める職員像や人事理念を明確化する。
  • 職の体系(職階等)を見直し、部長、課長、係長、主査等のそれぞれの職に求める役割、職務行動、能力基準等を明確化する。
  • 人材育成、人事考課、昇任昇格等の各制度は、②の「能力基準等」に到達・適合するよう、職員を訓練し、評価し、任用するシステムとして、全体の整合性を確保する。

C) 職場の役割を明確化し、職場の人材マネジメント機能を充実する。

人は、機会を与えられ、経験し、評価されて成長するものである。職場では、「任務」を与えられ、目標達成に努力し、上司や仲間から評価される、というプロセスが有効に機能していなければならない。
人材の育成、評価、活用に関して、職場はたいへん重要な役割を担っており、それだけに管理監督職の責任は重いといえる。職場のマネジメント機能を充実することが必要だ。
また、各行政分野の専門化、迅速化の要求が高まる状況下では、各部門が主役となって、職員の配置や研修、人事評価などを行っていく必要がある。"人事はすべて人事担当部門がするもの"という誤った認識を改め、組織編制や人事にかかわる権限を委譲していくことが求められる。