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人事戦略と公務員制度改革 「変革の時代の自治体人事政策2」

「地方自治職員研修」 2002年5月号掲載

 「人事管理は経営のための手段である。したがって、経営環境や目標が変わってくれば、それに応じてどのようにでも変革していかなければならないのである。」 (青木武一著「新時代の人事・研修戦略」より)

1 「人事戦略」という用語

 自治体では「戦略」という言葉をあまり使わない。「戦略」はstrategyの日本語であり、ビジネス用語としてはすでに定着しているが、やはり「戦」の字があるために、公共部門としては使用しにくいのであろう。「戦略」の類似用語に「方針」がある。「方針」は「戦略」の上位概念であったり、「理念」に近い使われ方をされることがあるので、ここではあえて「戦略」という用語を使うことにする。
 「人事戦略」とは、将来のビジョンあるいは当面の目標を達成するために、これからどういう人事政策をしていくかという具体的な方向性を示すものである。
 例えば、次のような方針を掲げることは、「人事戦略」の一端を示すことになる。

  1. 人材育成システムの強化充実によるプロ集団の形成をめざす。
  2. 能力・業績主義を基盤とした少数精鋭体制へ転換する。
  3. 個を尊重し、責任と自律を促すシステムを構築する。

 これらは人事の将来の方向あるいはあり方に一定の指針を与え、場当たり的な決定を排除して、人事政策に一貫性を持たせると同時に、これまでの人事管理のあり方を再検討し、人事制度全体を見直す上で重要な指針となり、よりどころとなる。

2 自治体の改革と人事戦略

 自治体では明確な「人事戦略」を持っているケースは少ない。トップは人事に関する自分なりの考えを持っていたとしても、それが明確な「人事戦略」として示されているケースとなると、さほど多くはないというのが実情だ。
 これまでの、自治体の人事といえば、国の指導や法令上の制約が存在する上に、国家公務員に準じた処遇制度を運用することが基本原則であった。また、自治体組織を取り巻く環境はきわめて安定的で、独自の「人事戦略」を検討しなければならないような大きな変化はなかったと言える。あえて言えば、国の方針や通達に従うことが「人事戦略」であり、そうすることが最も望ましい判断基準であった。
 しかし、社会環境は今、大きく変化しつつある。国、県からの事務の移譲、財政の硬直化、公務労働市場の変化(任用形態の多様化等)、さらに、公務員制度改革など、自治体を取り巻く諸環境は人事政策に大きな転換を迫ることが予想される。
 これまでのように、国の方針や通達に従うといった対症療法的な制度の見直しや部分的な改訂だけでは、諸環境の変化に対応しきれなくなる可能性が高い。仮に高度な能力を必要とする事務が移譲され、公務員の給与制度も変わることになれば、教育訓練や処遇システムの見直しに止まらず、人材獲得のための採用、異動配置、職場訓練、人事評価、昇任昇格等の仕組みやその連動のあり方を再構築することが必要になる。「人づくり」は部分的な制度上の見直しのみで実現できるものではない。
 また、自治体にはそれぞれの地域環境があり経営上の課題がある。実情に適した人事政策を主体的に選択し取り組むことが必要だ。現在、職員の高齢化により管理職層が肥大化し、組織の細分化による組織の硬直化、人件費の高騰等の問題を抱える自治体が出てきている。予測できたはずの問題を先送りにしてきたツケが事態を深刻化させている団体も多い。人事担当者には将来のリスクを明らかにし、主体的に解決に取り組む勇気が必要である。
 さらに、日本の公務員人事制度は、戦後から一貫して、年功的処遇システムを維持してきたため、職員のものの考え方や行動にも大きな影響を及ぼしている。次のような状況にある団体も多い。

  • 高い成果をもたらしても報酬に直結することはなく、また、たとえ非効率な仕事ぶりであっても、報酬に差が生じることはない。がんばっている職員には不満が残り、全体に仕事に対する意欲が減退している。
  • 横並びの昇格システムであるために、管理職の能力に大きな差が生じ、特定の部門においては部下の指導や状況把握が十分にできず、組織的決定の遅れや上下関係に問題を抱えるといった事態を招いている。
  • 能力を発揮してもそれが認められる機会は限られているために、困難を避ける傾向が強くなり、挑戦する意欲や向上心が芽生えにくくなっている。  このような状況の中では、必然的に「事なかれ主義」や「前例踏襲」といった悪しき慣行が定着しやすく、職場における人材育成も有効に機能しなくなる。年功的な処遇環境のもとで長年にわたり根づいた意識や行動を改革することは容易ではない。

3 公務員制度改革へ向けて自治体が取り組むべきこと

 昨年の12月25日に閣議決定した「公務員制度改革大綱」では、「硬直的な任用や年功的な給与処遇」を改め、能力・業績主義に基づく「新人事制度」を構築することを明確に打ち出した。
 現在の公務員の人事制度は、年功制と終身雇用を基盤に、採用、評価、育成等の諸制度が密接に関連した体系をかたちづくっている。現在のシステムを変革するには、制度全体を俯瞰し、構想し、システムを再構築して、組織に定着させる長期的・総合的な取り組みが求められる。
 また、「新人事制度」の導入は組織における人の活動に大きな影響を与える。「能力・業績主義」へ転換するためには、公正な人事評価システムの確立がカギとなるが、評価のあり方が、仕事に対する職員の姿勢や職場内のコミュニケーションに少なからず影響をもたらすことは容易に想像できるであろう。現在の職場の状況のままで、上司が部下を公正に評価し、個別に面談し、指導・育成するシステムが有効に機能するかどうか事前に十分検討することが必要である。それが難しいようであれば、今からどのような手を打てるのか、対処の方策を真剣に議論する必要がある。
多少の混乱はやむをえないとするか、今から人事考課システムや職場のマネジメントの改革に着手し、円滑な移行を実現しようとするのか、人事担当部門の姿勢が問われている。
 加えて、現在は若手・中堅職員の仕事に関する価値観が多様化している。権威主義的な上からの押し付けだけでは人は動かない。改革には人を説得するだけの意味付けが必要である。「伝家の宝刀」を振りかざすような、「法令が変わったから」という理由だけで職員を納得させることのできる時代ではない。「新人事制度」の意味を問い直し、人事制度改革を方向づけ、納得させる自治体固有の理念とビジョンが求められている。