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公務労働市場が変わる 「変革の時代の自治体人事戦略1」

「地方自治職員研修」 2002年4月号

はじめに

 平成13年12月に「公務員制度改革大綱」が閣議決定した。これまでの公務員人事制度の枠組みが見直され、年功主義人事を廃止して、能力・業績主義人事へ転換することが明確なものとなった。
 しかし、自治体人事制度の改革の動きは、能力主義人事ばかりではない。最近矢継ぎ早に施行された法令や、民間の労働環境の変化の流れを見ると、公務員人事は大きな転換期を迎えているように思われる。
 そこで、今回から始まるシリーズでは、公務労働環境や自治体経営の変化の方向を検討し、様々な角度から自治体人事政策の今後のあり方を探ることにする。

第1回 公務労働市場が変わる

 公務員の労働市場の変化を検討するには次の三つの視点が重要である。

  • 任用形態の多様化
  • 人材の流動化
  • 公務を担う人材の多様化

以下、それぞれの最近の状況と今後の動向について述べる。

1 任用形態の多様化

 地方公務員の任用形態が多様化しつつある。これまでの基本的な任用形態は、いわゆる「正規職員」(終身雇用を前提とした正式任用職員)であり、そのほかは、臨時・非常勤職員の任用が中心であった。
 しかしここ数年の間に、公務労働力の確保や任用にかかわる法改正が次々と行われている。
まず、平成11年12月には、改正労働者派遣法の施行により、派遣労働者の対象業務が特定の業務を除いて原則自由化された。また、平成12年7月には「地方公共団体の一般職の任期付研究員の採用等に関する法律」が施行され、平成13年4月には、「再任用制度」が施行されている。
 さらに、最近では、地方自治体における「任期付職員法」の制定や、臨時・非常勤公務員の任用根拠にかかわる法改正(以下、仮に「短時間公務員法」と言う。)が取り沙汰されており、これらも公布・施行されれば、任用の選択の幅は大きく拡大することになりそうだ。
 これらの中で今後の公務員人事に大きな影響をもたらすと考えられる法改正は「任期付職員法」と「短時間公務員法」である。
 「任期付職員法」は民間の高度な専門的知識・経験のある人材を任期を限って採用するもので、もっぱら「正規職員」が公務の職責を担うべきであるという、これまでの既成概念を覆す重要な意味を持っている。
 現在は、「正規職員」のほかの職員といえば、地方公務員法上の身分が不明確な臨時・非常勤職員がほとんどであり、重要な職務は「正規職員」が担当せざるを得ない面があった。しかし、「任期付職員」の制度が確立すれば、公務は必ずしも終身雇用を前提とした「正規職員」が従事する必要はなくなる。任期のある期限付きの任用であっても、高度な専門的分野において、その職務にふさわしい力量を発揮し、公務員としての職責を果たせるのであれば、「正規職員」に代わって重要な職務を遂行することが可能となるからである。
 情報処理や金融政策部門の課長級職員を民間から公募した自治体もあるように、今後は様々な分野において、民間の知識と経験が必要になる。また、自治体経営の観点からも、庁内で得られない有為な人材を必要なときに確保できるメリットは大きいと言える。
 一方、「短時間公務員法」の制定の目的は、臨時・非常勤職員の身分や労働条件の安定化を図ることにあると考えられるが、仮に、短時間公務員制度が確立されれば、増大する公務事務を担う重要な戦力になることは間違いない。
これまでの臨時・非常勤職員は「正規職員」の事務補助が多く、伝票の作成、データ入力、文書の整理等の庶務を担当するケースが多かった。「短時間公務員法」が施行されれば、公務員としての身分が明確になるため、定型的事務や基本的サービスの提供など、担当する職務の範囲が大きく拡大する可能性が高い。
 また、「短時間公務員」は市民としての感覚、行動原理を持った新しいタイプの公務員でもある。「正規職員」と協力して公務を担い、各種の施策に市民感覚を生かし、公務事務の改善や施策の質の向上に積極的に貢献することが望まれる。
 このような新たな任用形態が必要とされる背景には、国、県からの権限の移譲による事務の増大への対応のほか、より高度な職務に対応しうる専門的能力の確保といった大きな課題がある。行政各分野に行政のプロやスペシャリスト、様々な知識・経験を持つ多様な人材が必要になってきている。任用形態の多様化は、このような人材を確保するための選択肢を広げることになる。これからは、それぞれの職務に対応できる人材の要件を整理し、その確保のあり方を検討する必要があろう。

2 人材流動化への転換期

 人材の交流や流動化に関しては、これまでも、多くの自治体でさまざまな試みがなされてきた。主なものだけでも、自治体間の相互派遣、第三セクター等への出向、民間からの職員公募制、広域連合による人材の採用と派遣などがある。
 しかし、自治体の職員は、一旦採用されれば定年まで勤め上げることが通例であり、退職して他の自治体へ移るケースはほとんどない。
 また、「正規職員」の新規採用は、そのほとんどが新卒者で、中途採用者の割合もきわめて少ない。中途採用は、特定の能力が必要な場合や緊急な課題に対処するために実施することもあるが、内部の職員にとってはあくまでも例外的な任用と受けとめられている。
 一方、民間企業では、すでに労働市場の流動化が進み、中途採用は重要な人事戦略の一つになっている。
民間企業では、長期の不況、急激な産業構造の変化等により、生き残りをかけた競争が行われている。特に、知識・技術の進歩は著しく、競争に勝つためには必要な能力のある人材をタイミングよく企業に取り込み、事業を弾力的に組替えることが必要になる。
 また、労働者側もスペシャリスト志向が強く、自分の社会的価値を高めるために、転職によってキャリア形成を図る傾向が強くなった。企業の雇用関係は終身雇用から契約主義へと大きく変化しつつあり、人材の流動化は今後さらに進むことが予想される。
 このような採用戦略に関する民間企業と自治体との差は何に起因するものであろうか。
 ひとつは、組織を取り巻く社会環境の違いである。これまでの地方自治体は、環境の変化が少なく、法令や計画に基づいて堅実に事務を遂行することが重視されてきた。広範な基礎的サービスを提供する自治体組織では、政策の目的や内容を吟味することよりもミスのない堅実な仕事が求められ、どの部門でも対応できる事務能力や協調性、そして広い経験がなによりも必要とされてきた。また、手続き中心の組織では、上下関係を重視し、全体の「和」を重んじる組織風土が形成されやすく、異質な存在は疎んじられる傾向が強い。
 これらの特性を持った組織では、内部の人材をいかに育成するかが重要であり、あえて人材を外部に求める必要性は少ない。高い専門性のある人材や異質な人材に対する需要はほとんどなかったと言える。
 もう一つの要因は、中途採用職員の処遇に関する自由度の低さにある。
 民間企業であれば、人材の能力を評価し、組織の高い地位に抜擢したり、採用後に業績に応じて昇格させることが可能であるが、自治体では基本的に年功で昇格させる仕組みであり、管理職任用を除けば、そのほとんどが年齢と勤続年数によって決定される。
 それは中途採用職員といえども例外ではない。むしろ、採用時には同年代の職員に比べて低い初任給からスタートするケースが多い。また、入職後に高い業績を発揮したとしても、経験年数の上の者を追い越すことは容易ではない。
 しかし、このような状況も少しずつ変化が見えるようになってきた。周知のように、地方分権の進展に伴い、高い専門性や創造力を備えた職員が必要になってきている。また、地方公務員の処遇システムについても、能力・業績主義へ転換することがほぼ確実になり、能力本位の処遇が可能な状況になってきた。中途採用者を活用する条件が整いつつあると考えてよいであろう
 ただし、公務員の処遇が能力・業績主義に変わったとしても、それが直ちに人材の流動化に結びつくとは限らない。特に、自治体間の人材の流動化や公務労働市場の形成に関しては、いくつかの乗り越えるべきハードルが残っている。
 第一に、公務員の雇用保険の問題がある。公務員は雇用保険の適用除外になっているため、失業しても失業給付を受けることができない。これでは、次の就職までの生活資金が心配で思い切って退職できないケースが出てくる。
 第二に、職務の専門化が不十分である。人材の流動化が進むには、専門的な能力のある人材が多く排出される環境でなければならない。しかし、自治体には多様な職務があるにもかかわらず、教諭、保健婦、保育士などの資格取得者を除けば、専門的職務として認知されている職は少ない。都市開発、建築行政、法制執務などの専門職の確立は、職務内容の充実、住民の信頼性の向上を図るうえでも重要である。
 第三に、国、都道府県、市町村相互の人材の移動について、より柔軟に実現できるシステムを構築する必要がある。人材の移動は、自分にとってキャリアアップに繋がるかどうかがポイントになる。公務労働市場が形成され拡大するためには、公務員としてのより高度な職務、より深い経験を積むことのできる人材移動のシステムが不可欠である。 (参考)岩手県は、市町村に事務を移譲する際に、権限と財源と人材をセットにして一括移譲する方式を平成14年度から試行する。都道府県の事務は今後徐々に縮小していくものと考えられ、自治制度の動向と人材の移動は一体的に考えていくことが必要になろう。
 四に、導入される能力主義が現在の年功制の運用と大差のないものとなれば、長く勤めるほど処遇が有利となり、転職を考える経済的メリットは少なくなる。能力・業績主義の導入でどれだけ年功的な運用が排除できるか、その点が今後を占うカギになろう。
このように、公務員の人材の流動化が進むにはまだ十分に環境が整っていない面がある。ただし、第一の要因は今後の法改正を待たねばならないが、第二以降の要因はこれからの自治体の動きによって大きく状況が変わる可能性を持っている。予定されている地方公務員法の改正がその重要な契機になることは間違いない。

3 公共を担う人材の多様化

 地域の公共活動を担う主体は自治体ばかりではない。最近は「ガバナンス」や「コラボレーション」という用語が盛んに使われているように、市民と行政の関係は対峙するものから「協働」する関係へ変わりつつある。これからは、よりよい社会を築くための活動を行政のみが主導するのではなく、各市民セクター(ボランティア、地域自治組織、NPO等)を含めて役割を分かちあうことが期待されている。そしてその成果を互いに評価し、次の活動に結びつけていくことが重要になろう。
 東京都三鷹市では、市民の参加と自主運営で総合計画の素案づくりを行い、具体的な提言書「三鷹市民プラン21」をとりまとめた。
 長野県茅野市では、福祉、教育、環境の三分野について、行政計画の策定を市民・民間団体の代表者でつくる検討組織にそれぞれ一任している。
 このような計画段階における市民参加は、市民と行政が目標を共通化し、役割を分担してそれぞれの活動を展開する方向へ向かうものと考えられる。
 そしてさらにその先を俯瞰すると、市民と行政の公共活動を計画し、実施し、評価する協働マネジメントの構築、市民セクターへの権限の委譲という新たな展開が見えてくる。権限の移譲は、市民に行政の仕事を押し付けるのではなく、市民セクターが必要と考えるサービスを行政に取り入れ、また市民セクターが自己の責任において様々なサービスを行えるよう、意思決定の主体になることを意味する。
 こういった協働のシステムを構築するには、次のような人事政策上の配慮すべき点がある。

  • コーディネーターの確保
     協働体制を構築するには、市民セクターと行政、市民セクター相互間の役割分担や計画に関する調整が必要になる。各市民セクターの活動目的、価値観等を認識し、オペレーションレベルで各領域の活動を調整するコーディネーター。さらに、市民活動全体の目標、計画を調整し、進捗状況を管理するマネジメントレベルでのコーディネーターの確保が必要になる。
  • 人材の育成と共有システムの構築
     行政と市民セクターの協働は、単にお互いの活動を知っているというレベルではなく、それぞれの活動の実態や知識を共有することが不可欠になろう。また、人材を育成するのみでなく、必要に応じて公務員として勤務し、また市民活動に戻るといった人材の動きが円滑に機能する体制の整備が期待される。
  • 短時間公務員の新たな位置づけ
     さらに、市民との協働システムの枠組みの中で「短時間公務員」を位置づけることも考えられる。将来は1日の時間を市民活動と公務活動に分けて勤務する形態や、ワークシェアリングの理念をうまく活用することが考えられよう。
    今後、市民と公務員の役割は徐々に重なり合い、双方の境目はフレキシブルなものへと変わる。公務員を対象とした人事管理も、公共活動全般を視野に含めた人材の活用、現場を重視する方向での人材マネジメントの見直し等が必要になるだろう。