執筆活動

« 自治体における人事考課制度の導入目的 | 執筆活動Topへ | 自治体における人事考課制度の特徴(2) 「係長による評定と性格評価」 »

自治体における人事考課制度の特徴(1) 「横並び意識と秘密主義」

「地方自治職員研修」2001年11月号掲載

 今回から、自治体の人事考課制度の特徴について述べることにしたい。とはいっても、自治体がオープン型の本格的な人事考課制度に取り組むようになったのは、ここ数年のことであり、それまでは非公開の「勤務評定」が中心で、実態に関する十分な調査も実施されていない。そのためここでは、私が今まで自治体の人事制度にかかわってきた経験から、特に気になる特徴を中心に述べてみたいと思う。以下、次の事項について一つずつ取り上げて述べることにする。

  • 横並び意識が強い
  • 秘密主義、減点主義が多い
  • 係長職が考課に参加していない
  • 考課表に性格評価欄がある

1 横並び意識が強い

 自治体が人事考課制度を導入する時、たいがいの担当者がまず行うことは、すでに導入している団体に資料提供を依頼することであろう。
 初めて導入する場合には、他団体の資料を見比べてたたき台とし、これはと思う考え方を取り入れたり、良いと思われる内容を組み込んでいく。そのこと自体は悪い方法ではない。ただし、その場合であっても、主体的に目的を定め、それにふさわしい考課方法を検討し、フィードバックの方法やその結果をどう活かすかといった、人事考課制度の骨組みに当たる部分について事前に方針を固めておく必要がある。

 先日、某市から民間の自治体研修機関に問い合わせがあった。「人事考課制度の講習会を行ってもらいたい。講義に使用する考課基準や考課表をそのまま使って、すぐにでも人事考課をしたいので、その旨も了解いただきたい。」という依頼であった。こういった例は稀であろうが、あまりに安易な発想という他はない。
考課基準は何をもって職員の能力・行動を評価するか、その基準を定めたものであり、職員に期待し要求するレベルを示したものである。考課基準を見ればその団体がどのような能力・行動を職員に求め、どのような人材を欲しているか分かる。

 例えば、管理職の態度考課において、一般職員と同様に、「規律性」や「責任性」を評価している団体もあれば、「先見性」や「革新性」という視点から評価を行っているところもある。また、地方分権時代に対処できる人材を確保するために、住民や職員との「共感性」、管理指導職としての「経営感覚」などを考課項目に取り入れている団体もある。

 これらの違いの根底には、期待される人材像に関する考え方の相違がある。人事考課は単に人を格付けしたり、選抜したりするための手法ではなく、人の評価を通じて、職員に必要な組織行動をとらせ、望ましい人材を育てていくための手法である。どのような人材を育てるかは、それぞれの自治体の将来像や人事政策にかかわる事柄であり、それによって職員を評価する視点も変わってくるのである。この点の認識が十分でないと、"他の団体の良い事例をそのまま活用すればよい評価ができる"という発想になってしまう。

 自治体それぞれの「期待される人材像」については、「人材育成基本方針」の策定過程で、すでに検討を終えている団体も多い。人事考課制度との連携を図るためには、この「期待される人材像」を考課基準に組み込む必要がある。その基本的手順は次のようにすると良い。

  • 「期待される人材像」を、職種、等級ごとに具体化する。
  • 職種、等級ごとの「期待される人材像」を見極めるための考課内容(具体的な態度、行動、能力等)を洗い出す
  • 考課内容を分類・整理し、考課項目や考課の着眼点として、考課基準に組み入れる。

2 秘密主義、減点主義が多い

 「秘密主義」は、○秘扱いで人事考課を実施するもので、いつ、どのように考課が行われたか職員に知らされず、考課結果についても開示されない。一方、「減点主義」は、個人よりも集団の論理を優先し、集団内の考え方や上司の価値観にそぐわなければ減点するという考え方である。

 自治体組織では、歴史的に見ても権威主義的な管理統制型の組織体質を持っている。中でも人事担当部門の統制力が強い理由は、これまでの公務を取り巻く社会環境がきわめて安定的で、常に集団の論理で人事政策を推進することができたこと、終身雇用制のもとで職員に対する処遇の責任は人事当局が持つという仕組みがうまく機能していたことにある。集団の論理に従ってさえいれば、一定の地位と処遇が保証されていたのである。そのために、個人よりも集団を優先した統制型の人事管理システムが維持されてきた。それが、人事考課システムにおいても「秘密主義」や「減点主義」を長く続けることのできた要因であったといえる。

 しかし、地方分権時代では状況が変わってきた。集団の論理に単に従うだけの人材はその価値を失い、個人の創造的な発想や主体的な行動が自治体の将来を左右する時代になった。しかも、年功序列の仕組みはコストの増大をもたらし、若手職員がポストにつけないという状況を生み出した。そうなると、人事処遇の面でも、勤続年数中心の年功主義から、能力を評価し、育て、処遇する能力主義へ、さらには成果主義へと転換を図ることが必要になってくる。

 能力主義では、考課者の主観的評価を廃して、優れている点、努力を要する点等を職員に知らしめ、職員一人ひとりの育成計画や職場のOJT、自己啓発等に結びつけることが基本になる。また、「大過なく」仕事をすることが有利に評価されるのではなく、チャレンジ性、創意工夫をより評価する加点主義の人事考課制度へ転換することが求められる。「秘密主義」は「公開主義」へ、「減点主義」は「加点主義」へと仕組みを変えていかなければならない。

 「秘密主義」や「減点主義」を続けることは、組織にとっても決してよい成果をもたらさない。たとえ公正な評価を行っていても、職員の目にはそうは映らないからである。予想外の人事異動があると上司の評価のせいではないか、上層部の一方的な見方で人事が決定されていないかなどと疑ってかかるようになる。ひいては、上司と部下のコミュニケーション、職員のやる気の問題にも深刻な影響を与えることになる。

 それでも、「公開に耐える内容・水準に達していない。」という理由で職員への公開に踏み切れずにいる団体も多い。しかし仮に、制度の仕組みや考課基準、考課者能力が十分なものでないと考えるならば、あらかじめ公開する時期を設定した上で、早急に具体的な対応策を実施するべきである。自治体では「完璧主義」を求める傾向が強く、石橋をたたいても渡らない傾向があるが、人事考課制度のように関係者も多く影響の大きいシステムで、当初からだれもが納得するような仕組みをつくれるはずはない。試行運用を行い、現場の意見を取り入れ、改善を繰り返すことが、結果的に公正で納得性の高い、しかも運用しやすい制度にもっていく近道になるのである。
 (つづく。)