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自治体における人事考課制度の導入目的

「地方自治職員研修」2001年10月号掲載

 「人事考課の目的をどのように考えたらよいか」と問われると、私はいつも「あなたが人事考課制度に期待するものは何ですか」と聞き返すことにしている。なぜなら、人事考課制度は導入しようとする者の意志が色濃く反映されるシステムだからである。

1 活用面から見た一般的な人事考課の目的

 人事考課の結果をどのように活用するかという視点からその目的を考えると、大きく次の3つに整理することができる。

  • 人材の活用
    能力や適性を評価して、昇任、異動、職種転換など、組織上の活用を行う。
  • 公正な処遇
    努力の程度や成績等を評価して、昇格、昇給、勤勉手当などを公正に決定する。
  • 能力の開発
    仕事ぶりを観察し評価して、長所や短所をつかみ、能力開発に役立てる。

 「人材の活用」では、管理監督職への昇任条件の一つとして、人事考課の最近の結果を参考にしている団体も多い。ただし、人事考課の結果のみで判断するのではなく、上司の推薦や多面評価(部下による評価など)で適性を把握したり、自己申請させて積極的な意志を確認するなど、総合的に判断する仕組みをつくる必要がある。また、同様にして、他の職場への異動や職種転換の参考にするケースもある。

 「公正な処遇」は、人事考課システムを、昇格、昇給などの処遇決定に結びつけるものである。自治体では勤勉手当へ反映させるケースが増えているが、昇格に反映させている団体は少ない。しかし今後は、人事考課の結果を昇格要件とし、上位等級の職能レベルに達していると評価された場合には昇格させるといった運用が求められる。

 「能力の開発」を目的とする場合には、等級基準、考課基準等を公表した上で、OJT、OFFJT、自己啓発等へ積極的に結びつける仕組みをつくる。仕事を通じて部下を指導育成し、能力の到達レベルを評価して、さらに上位の能力の獲得を目指すという循環型のシステムを定着させることが重要になる。最近の自治体の事例では、そのほとんどが「能力の開発」(または「人材の育成」)を主要な目的の一つに掲げている。

2 導入目的の多様性とイメージ化

 人事考課制度の導入を図る際に、次のような事柄を目的に掲げる団体もある。

  1. 公正な評価システムの導入による職員の士気の向上
  2. 本人の意欲の尊重、チャレンジ精神の向上
  3. 上司と部下のコミュニケーションの円滑化
  4. 職場における目標の共有化、連携体制の強化
  5. 管理職の指導育成力、職場の人材マネジメントの充実
  6. 職員の意識、行動様式の変革、望ましい公務員像の実現

 これらの目的には、人事考課制度の仕組みを利用して、人事制度をより公正なものとし、職員の働きがいや組織の活性化に結びつけたいという意志が感じられる。自治体が人事考課制度を導入する背景には、公正な評価制度をまず確立し、能力主義人事への基盤づくりを行うという側面のほか、職場のあり方や、職員の行動を変えたいという、人事担当部門の切実な想いがあることが多い。その点で言えば、考課結果の活用という視点で掲げた先の3つの目的(「人材の活用」、「公正な処遇」及び「能力の開発」)よりも上位概念の目的と言うこともできる。

 公務職場では、今でも多くの団体で年功主義による昇任昇格システムや、一方的な勤務評定システムが存在しており、現実には次のような問題も発生している。

  1. 職員の高齢化が進み、管理監督職のポストもこれ以上増やせない。年功的昇格システムが行き詰まっている。
  2. 職員数の抑制等により、お互いに協力する余裕がなくなり、全体的に職員の意欲が減退している。
  3. 上司と部下の考え方に差がある。部下は上司に必要な報告をしていない。上司は適切な方針を打ち出せない。
  4. 職場の目標、課題などの情報の共有化が進まない。各部署が集団として機能していない。
  5. 年功による昇任の影響で管理職の指導育成力に大きな個人差がある。特定の上司の下では部下が育たない。
  6. 地方分権時代が到来したにもかかわらず、職員の意識や行動は何も変わっていない。旧態依然とした組織体質である。

 人事考課制度の基本的機能は職員を公正に評価することにあるが、人事考課制度の仕組みを適切に構築することで、職場の実態をより望ましい方向へ導くこともできる。

 例えば、等級基準や考課基準をオープン化し、どのような能力や行動がより評価されるか職員に周知すれば、職員の能力開発や日々の行動を望ましい方向に誘導することができる。また、目標設定、部下との面談、評価結果の本人へのフィードバック等を制度化することにより、目標の共有化、上司の指導力の強化、職場内コミュニケーションの円滑化等を促進することも可能である。

 もちろん、その逆に、一方的な査定主義、賞罰主義の仕組みをつくれば、職場が権威主義に陥り、職員は以前にも増して無難に仕事をするようになる。それだけに、人事考課の目的やねらいを検討する際には、「どのような職場にしたいのか」、「職員はどのような人材であって欲しいのか」、といった、導入後のあるべき姿をイメージしておくことが極めて大切である。

 あるべき姿のイメージは、人事考課制度を設計する際に、全体のフレームワークを固め、取り入れるべき仕組みや基準を決める重要な判断材料になる。また、導入から定着化へ向けて段階的な目標を設定したり、必要な軌道修正を行うときに、制度全体を方向づける役割も担うことになる。

 人事考課制度の導入目的は多様であるが、あまりに多くを掲げると焦点がボケてしまう。重要なことは、導入の意図を十分に吟味し、到達点を具体的にイメージして方向性を明確化することである。