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総務省の参考例(「評語付与方式」と「数値化方式」)を活用する際の注意点(能力評価その2)

平成27年1月3日作成

3 総務省が示した参考例(「評語付与方式」と「数値化方式」)を使う際の注意点

さて、本稿のテーマは、「評語付与方式」や「数値化方式」を活用する際に、自治体が検討すべき点や注意点などについてお伝えすることでした。以下、私の考えを述べます。あくまで参考としてお読みください。

(1)評価項目の数を増やすこと

能力評価の評価項目数は、一般的には7以上、平均は8~10程度です。しかし、総務省が示した参考例では、「一般行政職・係員」を例にとると、「評語付与方式」の評価項目数は4つ、「数値化方式」(評価項目又は行動単位に評価)であっても7つしかありません。

人事評価の導入目的は処遇に反映することのみではありません。職員の個性を把握してその人材の活用を図ることや、良い点や不十分な点を把握して育成を図ることが大切です。評価を実施した後、この人はこういった傾向がある、こういう特徴があるといった点が見えるようにするためには、ある程度の評価項目数が必要になります。

例えば、主事級の若手職員であれば、先ほどの自己研鑽の他、住民応対の仕方やコスト意識は身に付けてほしいし、創意工夫やチャレンジ精神、積極的に発言・提案する姿勢も求めている自治体が多いと思います。であれば、こういった姿勢や能力が十分であったのか評価結果にその傾向が表れるような評価項目の体系が望ましいと言えます。「住民志向」、「挑戦工夫」「コスト・時間管理」などの評価項目を設定している団体もあります。

また、総務省が示した「評語付与方式」について見ると、一般行政職・係員用に「業務遂行」という評価項目があり、①正確さ、②迅速さ、③期限厳守などが着眼点として列挙されています。しかし、このままでは、正確に早く時間通りに処理する人が評価されるということだけで、どういった能力・行動に優れていてどういった点を改善すべきかについては評価結果からは見えてきません。

そこで、「業務遂行」を、例えば「創意工夫力」と「業務管理力」に分け、評価項目を増やす対策を検討してはどうでしょうか。そして「創意工夫力」については「自ら工夫して、より効率的な仕事のやり方等を取り入れている」といった具体的な着眼点(標準職務遂行能力)にする。また「業務管理力」についても、「いつまでにどうするかを決め、スケジュールを工夫して計画的に業務を進めている」や「進捗状況や環境変化を十分把握し、優先順位を考え的確に判断・対処している」などに変更することも考えられます。

ここで述べたことはあくまで一つの改善例ですが、このように変えると、評価する方もされる方も求めているレベルがわかり、具体的なイメージをもって評価できるでしょう。

(2)多様な職に対応できるようにすること

総務省が示した参考例は、一般行政職の一部(係員用、係長用、課長用)と技能労務職員用の人事評価記録書です。一般行政職におけるその他の職や保育職員等の専門的職種、再任用職員については、自治体で自ら準備する必要があります。

これらの職についても、先行して取り組んでいる団体の事例を是非参考にしてください。特に、保育職員、消防職員等の専門的職種については、園長や消防幹部の皆さんにも協議に参加いただく必要があります。職務経験のない人事担当部門の職員のみで作成すると実態と合わないものになってしまいます。

なお、総務省が示した参考例では、一般行政職・係員の人事評価記録書は一つのみですが、主事補・主事級クラスと主任・主査クラス(係長は除く)に分けて、人事評価記録書を作成した方がよいと考えます。

この2つのクラスを比べた場合、求める能力・行動のレベルは明らかに異なるからです。主任・主査クラスになれば折衝・交渉の能力が求められますし、例外的状況においても的確に判断する力も求められます。若手に助言したり臨時職員に仕事の仕方を教えたり、時には率先して行動することも必要でしょう。当然、評価項目の構成も「標準職務遂行能力」の内容も違ったものになるはずです。

(参考)「標準職務遂行能力」は、当該職の標準のレベルで設定するのではなく、こうあってほしいというレベル、すなわち当該職が目標とすべきレベルで設定します。もし、係員一本で評価してしまうと、求める「標準職務遂行能力」は、主事補・主事クラスからみると高いレベルになりますから、主事補、主事クラスはいつも低い評価となってしまいます。もちろん、「標準職務遂行能力」を係員共通の抽象的な表現にしておき、「主事は主事相応のレベルに読み替えて評価し、主査は主査相応のレベルに読み替えて評価する」としている団体もありますが、この方法では、求めるレベルを評価者側に委ねることとなり、評価に甘辛が発生しやすくなります。

(3)評価基準を再検討すること

「評語付与方式」において評価項目を評価する際の共通評価基準は次のとおりでした。

s:求められる行動が全て確実にとられており、付加価値を生む、他の職員の模範となるなどの職務遂行状況である。

a :求められる行動が確実にとられていた。

b:求められる行動が概ねとられていた。(通常)

c:求められる行動が最低限はとられていた。(できた場合もあったが、できなかったことの方が多いなど、総じて判断すれば、とられていた行動が物足りなかった。)

d:求められる行動が全くとられていなかった。

「s」の「求められる行動が全て確実にとられており」と、「a」の「求められる行動が確実にとられていた」の違いがわかりにくいように思います。このままですと、概ねとられていれば「b」にして、ほとんどとられていれば「a」、すべてとられていれば「s」と解釈する評価者が多くなると思われます。

一般的に「s」は卓越したレベルを想定して定義します。民間企業の多くは、求められる能力・行動のさらに上の能力・行動を発揮していないと「s」は与えません。さらに、規律遵守や責任感といった基本的態度にかかわる評価項目については「s」を付けてはならないルールにしている企業もあります。

また「c」に「最低限とられていた」や「できなかったことの方が多い」という表現が入っていますが、このような表現が入ると評価者は「c」を避け、不十分な能力の状態でも「b」をつけると思われます。「やや不十分な点があった」、「明らかに物足りないことがあった」などの表現に変更することも検討してください。

仮に、”特段の問題はなかったから「b」にする”といった評価が定着化してしまうと(自治体はこの傾向が強い)、「c」と評価された職員は「問題のある職員とみなされた」と思ってしまいます。また、評価者も極力「c」を避けるでしょう。言うまでもなく、「c」は「問題のある職員」ではありません。”当該職としてさらに能力を伸ばす必要のある成長途上の職員”です。このような誤解のないように認識を合わせておかなければなりません。

一方「数値化方式」は評価項目及び行動ごとに、「イ」、「ロ」、「ハ」、「ニ」の異なる評価基準が設定されていますが、「標準配点の例」が「イ」となっていて最高得点になるケースが多数を占めます。

しかも、標準配点の「イ」は、当該職であれば当然満たしているべき内容となっていますので、評価者は「イ」を選択することが多くなると考えられます。“満たして当然”といった内容は「ロ」に記述し、より上位の能力・行動を「イ」とし、物足りないレベルを「ハ」にすると、高得点評価を抑えることができるでしょう。

総務省の参考例をそのまま使うと、全体が甘い評価になる可能性が高いと思われます。高い評価を許すと、結果的に、被評価者に対する評価者の要求レベルの低さをも許容してしまいます。職員の育成や組織の将来を考えたとき、全体を甘く評価する制度であってはならないと思いますがいかがでしょうか。

(参考) 通常、s、a、b、c、dの5段階判定の場合、通常、標準のレベルを「b」とします。また、通常、「標準職務遂行能力」は、当該職の標準のレベルで設定するのではなく、こうあってほしいというレベル、すなわち当該職が目標とすべきレベルで設定します。したがって、「標準職務遂行能力」(求められる行動)が確実にとられていれば、目標レベルに達した優秀な職員ですから「a」であり、概ねとられていたら「b」を与えます。

(4)一次評価者を補佐・係長級職員にすること

総務省の参考例では、係員、係長、課長補佐の一次評価者は課長になっています。課員の人数が少ない団体では、係長、一般職員の区別なく課長が指導をしているケースが多いため、一次評価者は課長であっても差し支えないと思います。

しかし、課員の人数が多い場合や、課長補佐や係長が係全体の進捗管理や業務指導等を行っている場合には、補佐、係長の方が被評価者の職務行動をよく把握しています。そのため、目標を設定する際には課長補佐や係長の考えとの調整が必要になりますし、また評価を決める際にも評価対象期間中の職務行動について課長補佐や係長の認識を聴く必要があります。

このような理由から、私はむしろ、一次評価者を課長補佐、係長にした方がよいと考えています。またそうすることで、課長補佐、係長の部下育成力を強化することもできます。

被評価者の立場から見ると、課長補佐、係長は身近な存在です。重要なことは常に話し合いながら業務を進めていますから、実態を見てくれているといった安心感があります。面談も課長と話すより課長補佐、係長の方が話しやすいでしょう。

しかしながら、「課長補佐、係長では監督職としての能力に差があり、評価者の任を担わせることができない」、という声もよく聞きます(本来、監督職としての資質が問われるような人材をそのままにしておくことが問題ですが)。その場合には、総務省の参考例のように、課長補佐、係長を「評価補助者」としてはどうでしょうか。

ただし、評価補助者は一次評価者に対して被評価者の評価にかかわる事実を伝える役割はありますが、実際の評価を行うことはできません。重要な事実があったときにはその都度報告させたり、定期的に指導育成の実情を確認した方がよいでしょう。また、面談については、目標設定面談や事実確認面談(後述)に同席できるようにしておくなど、運用に幅を持たせた方がよいと考えます。

(5)自己評価提出後に事実確認のための面談を行うこと

総務省の中間報告では、一次評価を行う際には、「被評価者が記載した自己申告の内容について、自ら収集した被評価者の評価期間中における職務の行動等に照らし、適宜被評価者に確認を求める。」とあります。

私は、この確認を求める面談を重視すべきであると考えます。この面談を「事実確認面談」や「育成面談」と呼ぶ団体もありますが、ここでは「事実確認面談」と呼ぶことにします。

「事実確認面談」の主な目的は3つあります。

まず、被評価者から自己評価の根拠を聴き必要な事実確認をすることです。被評価者の自己評価の中には、上司の判断と異なるものがいくつかあるはずです。上司は被評価者の職務行動をすべて見ていたわけではありませんので、上司の知らない事実があった可能性やときには上司が誤解して認識している可能性もあります。また、業績評価では目標の達成状況をよく確認しておかないと適切な評価ができません。

2つ目の目的は、上司の見方を伝え事実認識のすり合わせをするためです。被評価者にとっては高く評価される事実だと思っても、経験者である上司から見ると不十分な点に気づくこともあります。そのようなときには、上司の見方を伝え、その事実にかかわる認識をすりあわせておきます。このすり合わせをしておけば、評価結果を開示する面談(総務省の「中間報告」では「期末面談」という)の上司側の負担も大きく軽減できます。

3つ目の目的は、今後について話し合うことでモチベーションを維持・向上させることです。良かった点は口に出して認め、不十分な点はどうすればよかったか、今後どうしたらよいか、被評価者の立場に立って助言したり今後の行動について話し合います。気づいた反省点を次に生かす面談を行うのです。そして、過去のすでに済んだことよりも今後に向けて気持ちを切り替えさせます。

このほか、「事実確認面談」は、被評価者が自己評価を通じて良かった点や反省点を意識した直後に行うため、より具体的な話になりやすいこと。また、一次評価は「事実確認面談」の後に決めればよいので、評価結果を開示する面談に比べて、多少認識が異なる事実においても上司は率直に自己の考えを伝えやすいといったメリットもあります。

人事評価制度は、過去の勤務評定のような一方的な査定制度とは異なり、被評価者の納得性を重視した運用を行う必要があります。「事実確認面談」を実施して、被評価者とともに職務行動等を振り替える機会を持ったうえで評価する方が、被評価者は評価結果に納得しやすくなりますし、評価者も評価結果も開示しやすくなります。