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総務省の参考例(「評語付与方式」と「数値化方式」)を活用する際の注意点(能力評価その1)

 平成27年1月3日作成

平成26年4月の地方公務員法の一部改正により、地方公共団体においても、平成28年度には処遇への反映を想定した人事評価制度の運用を開始しなければなりません。まだ人事評価制度の設計・試行を実施していない団体では、早急に人事評価制度の導入に取り組む必要があります。

総務省は、平成26年10月に「地方公共団体における人事評価制度に関する研究会中間報告」を公表しました。この報告では、人事評価制度の円滑な導入や運用に向け、留意すべき事項や参考となる規程(人事評価シートである「人事評価記録書」を含む)を情報提供しています。当然のことながら、総務省が参考例を示したとなれば、制度未検討の団体の多くは「この通りに実施すれば間違いはないであろう」と考えます。“渡りに船”とばかりに、総務省の参考例を使うことになるでしょう。

そこで、本稿では、総務省の参考例のうち、能力評価に焦点を当て、「評語付与方式」と「数値化方式」の違いについて紹介し、これらの方式を使う際に自治体として検討すべき点や注意点などについて私なりの考えをお伝えしたいと思います。

1 「評語付与方式」と「数値化方式」の違い

「評語付与方式」と「数値化方式」は、評価項目についてはほぼ一致していますが(課長職は一部異なる)、評価の方式が異なります。

まず、「評語付与方式」は評価項目ごとに、評価項目に該当する職務行動(人事評価記録書に明記されている)を安定してとることができたか、s、a、b、c、dの5段階で判定します。そして、これら評価項目ごとの評価を踏まえて、能力全体について、S、A、B、C、Dの5段階で評価します。

一方「数値化方式」では、評価項目又は行動(評価項目をさらに2~3つに区分)ごとに2~4つの異なる職務行動のレベル(イ、ロ、ハ、ニ)が示されていて、被評価の行動がそのいずれにあるか選択し、該当する点数を付与します。そして評価項目又は行動ごとのそれらの点数を合計して、能力評価の全体の点数とします。

さて、この2つの方式の根本的な違いは何でしょうか? 能力評価を点数で表す場合には「数値化方式」が、数値で示す必要がない場合には「評語付与方式」が良い、と単純に考えてよいでしょうか?

実は、「評語付与方式」であっても、評価項目ごとのs、a、b、c、dをそれぞれ仮に5、4、3、2、1に変換して点数を合算すれば全体評価を数値化できます。また、「数値化方式」についても、職務行動のレベルである「イ」、「ロ」、「ハ」を選択していますから、これを点数化せずに、S、A、B、C、Dの総合判定を行えば評語付与の方式になります

すなわち、「評語付与方式」は「数値化方式」に、逆に「数値化方式」は「評語付与方式」に変えることができます。

ではどこが根本的に異なるのか。それは、「評語付与方式」が、評価項目ごとに5段階の共通評価基準に照らして判定しているのに対して、「数値化方式」は、評価項目及び行動ごとに異なる2~5段階の評価基準(イ、ロ、ハ、ニ)に照らして判定している点です。

「評語付与方式」において評価項目を評価する際の共通評価基準は次のとおりです。

s :求められる行動が全て確実にとられており、付加価値を生む、他の職員の模範となるなどの職務遂行状況である。

a :求められる行動が確実にとられていた。

b :求められる行動が概ねとられていた。(通常)

c :求められる行動が最低限はとられていた。(できた場合もあったが、できなかったことの方が多いなど、総じて判断すれば、とられていた行動が物足りなかった。)

d :求められる行動が全くとられていなかった。 

一方「数値化方式」は評価項目及び行動ごとに、異なる評価基準が設定されています。例として評価項目「倫理」の評価基準(一般行政職・係員の場合)を示します。

イ) 下記のいずれにも該当しない場合。

ロ) 職場の士気を低下させるような服務規律に反する行為が複数回ある

ハ) 職場の士気を低下させるような服務規律に反する行為が度々ある 

2 「標準職務遂行能力」との関係はどうなっているのか

「評語付与方式」と「数値化方式」のどちらを選択すべきか、早く答えがほしい、と思っている方も多いと思いますが、その前に、「標準職務遂行能力」との関係についても確認しておきましょう。

国は地方公共団体に「標準職務遂行能力」を明確にするよう求めています。「標準職務遂行能力」とは、職制上の段階及び職務の種類(職種)に応じて定められた職務上発揮することが求められる能力を表したものです。例えば、本庁の係長であれば、こういった行動ができなければならない、とか、保育所の園長であれば、~のできる能力を身に付け発揮しているか。というように、職ごとに求める能力・行動のレベルを明確にするものです。

人事評価をするためには、このような求めるレベルを明確にしておく必要があります。そうしておかないと評価者によって求めるレベルが異なり評価に甘辛が生じるからです。特に地方公共団体では本格的な評価制度を導入していませんでした。そのため、部下が特定の行動をしたときに、それを十分な行動だと考える評価者もいれば、まだまだ不十分だと考える評価者もいます。部下に求めるレベル、こうあってほしいと考えるその内容にすでに大きな個人差があります。当然このままでは公平・公正な評価はできません。

さて、その「標準職務遂行能力」ですが、「評語付与方式」の場合にはどこに示されているでしょうか。「評語付与方式」では評価基準が共通基準として一本化されていますが、その共通基準の文中に「求められる行動」とあります。この「求められる行動」とは「標準職務遂行能力」を指しています。そして、その標準職務遂行能力は、「評語付与方式」の人事評価記録書の評価項目の欄に明記されています。一般行政職・係員の評価項目のうち「知識・技能」には次のような文章があります。この①と②の内容が「標準職務遂行能力」です。

①知識・技術の向上:知識・技能の向上業務を通じ、知識・技能を向上させる。

②情報収集:情報収集業務に関係する情報を収集・整理する

一方、「数値化方式」の場合は、先に説明したように人事評価記録書に評価項目及び行動ごとに2~5段階の評価基準が記載されていますが、その標準配点の行動(緑色で網掛けされています)がその職に求められる行動、すなわち「標準職務遂行能力」となっています。一般行政職・係員の「知識・技能」では、「業務知識」と「IT技能」の「イ」に該当する能力・行動です。

  • 「業務知識」のイ:業務の遂行に必要となる知識を有しており、それを活用して業務を正確かつ円滑に処理している。
  • 「IT技能」のイ :ITの利用にあたって、他の職員に依存しなくても業務を正確、円滑に処理し、業務遂行及びセキュリティ確保に支障をきたすことがない。

上のように「評語付与方式」と「数値化方式」では「標準職務遂行能力」(求められる行動)の記載が異ります。人事評価をするときには、当然これらの文章を読んで評価しますから、「評語付与方式」では「知識・技術の向上」と「情報収集」を評価し、「数値化方式」では「業務知識」と「IT技能」を評価します。

実は、この2つの違いは重要です。同じ評価項目であっても評価する行動・能力が異なるということは、組織が職員に期待し求めていることが異なるということになりますから、十分に吟味したものでなければなりません。そこで、一つ、具体例で考えてみましょう。

例えば、自分の知識・技術を高めようと努力する行動として、「法令の根拠など、わからないことがあればすぐに自ら調べている」、「先輩の行動や専門家から学ぶ姿勢がある」、「業務に関係するセミナーや研究会に積極的に参加している」などがあります。

これらは自己研鑽に当たる行動ですが、先の「評語付与方式」では「①知識・技術の向上」(「知識・技能を向上させる」職務行動)に該当するため評価の対象にできますが、「数値化方式」では評価することができません。

なぜなら、「数値化方式」の「業務知識」も「IT技能」も、「業務を正確かつ円滑に処理」する知識・技術があるか問うかたちになっているからです。自己研鑽に努力する行動ではなく、すでに業務担当者として必要な知識・技術を身に付けたか否かで評価するかたちです。必要な知識・技術がないと良い評価はもらえません。

中堅職員や管理職層はその考え方でよいかもしれません。しかし、自己啓発、自己研鑽の姿勢は、若手職員には是非とも身に付けてほしい行動です。向上心のない人は伸びないからです。たとえ、今の段階では不十分な知識・技能であっても(その点では評価が低いとしても)、自己研鑽努力をしている姿勢自体が大切であり、それも評価の対象とすべきだと考えますがいかがでしょうか。

「総務省が示した参考例だから間違いはない、だからこのまま使う」、という選択は避けてほしいと思います。自治体を担う職員として、どういう職員になってもらいたいのか、そのためにはどんな職務行動や能力を高く評価すべきなのか考え、「標準職務遂行能力」(求められる行動)を吟味し、自治体の想いを反映するように修正してほしいと思います。

「標準職務遂行能力」(求められる行動)に関しては、国の各府省庁の事例もありますが、先行して取り組んでいる地方公共団体の事例も多数存在します。評価項目の「着眼点」として列挙している団体もあります。是非、見比べて参考にしてください。

・・・・「総務省の評語付与方式と数値化方式、活用上の注意点(2)」へつづく