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新たな事業やシステムのコンセプトを整理する「WCAT」の使い方

新しい事業を立案するとき、商品を開発するとき、仕組みを創るとき、コンセプトを明らかにするよう求められます。でも「コンセプト」と言われても、何を明らかにすればいいのか。

私は、「WCAT」(ダブルキャット)で考えることをお勧めします。

「W」はwhy、「C」はcustomer、「A」はactor、そして「T」はtransformation processを指します。

W(why): なぜするのか、事業等の目的

C(customer): 受益者(ターゲット、影響を受ける人等)

A(actor): 実施者(だれが実施するのか)

T(transformation process): 変換プロセス(何をどういう状態に変えるのか)

具体的に考えてみましょう。例えば、市が高齢者向けの福祉バスを運行する事業を企画するものとします。WCATで分析すると・・、

W:高齢者の足を確保し、生活の利便と地域とのつながりを向上させる

C:市内に住む高齢者

A:自治体、運行はバス会社

T: バス停留所にいる高齢者を、目的地に近いバス停に着いた高齢者に変換する

そして、改めてこのWCATを読むと、いろんなことに気がつきます。「C:市内に住む高齢者」に限定していいの?高齢者以外の人は乗せないの?「T」は「バス停留所にいる高齢者」になっているけど、足腰が弱くなっている高齢者も多いのにバス停まで歩けってこと?玄関まで迎えに行けないの?地域住民の協力を含めて事業を考え直したら? 買い物弱者対策としてとらえたらどうなる?、などなど。

WCATで考え議論すると、事業やシステムの枠組みを固めるだけでなく、その事業やシステムを”良し”とする考え方、価値観を考えることにつながり、そもそも何のためにどうすべきなのかという議論ができます。そして再度WCATを整理したとき、コンセプトは明確になっているはずです。

実は、WCATのうち、W(目的)を”固める”ことは後回しにした方が良いのです。「最初に目的を考えないでどうする!」とお叱りの言葉が飛んで来そうです。

確かにある程度の方向性を示すことは必要です。しかし、先に目的表現を決めてしまうと、様々な可能性を持つ事業なのに、特定の方向付けやシステムの輪郭がほぼ固まってしまいます。もちろんそれで良い場合も多いのですが、大事なことに気づかずに捨ててしまっていること、ないでしょうか。

例えば、新たな刑務所をつくるとき、「受刑者に罰を与える」という目的もあれば、「社会復帰させる」という目的もあるでしょう。「危険な人物を隔離する」目的もあります。目的は多様であり、関係者の立場によっても違いが生まれます。受刑者にとっては生活の場であり、生きがいを見出す場かもしれません。

多様な目的が考えられる場合には、むしろ、「C」、「T」を先に考えます。例えば、先ほどの福祉バスであれば、対象は「市内に住む高齢者」とすぐ決めてしまうのではなく、買い物弱者に限定してみる、一人で乗る保育園児も対象にしたら、など、自由に理想的な事業を探るような気持ちで発想してみる。そして事業のイメージや範囲が見えてきたら、そのあとに「W」や「A」を考えると”腑に落ちる”目的や実行者が見つかりやすくなります。

特に「T」は時間をかけて議論してください。なぜなら、「T」は、事業やシステムの対象領域(設計領域)を決めることになるからです。

福祉バスでいえば、変換の前の状態(インプット)は、「バス停留所にいる高齢者」であり、変換後の状態(アウトプット)は、「目的地に近いバス停に着いた高齢者」です。このインプットを「自宅にいて出かけたいと思っている高齢者」にしたらどうなるでしょうか。その場合には、「自宅にいて出かけたいと思っている高齢者」の情報をどうつかむか、どうやってバス停まで来てもらうのか等を含めて事業を考えるようになります。

理想の検討の順番は、まず「C」。受益者、ターゲットを定義する。プラスやマイナスの影響を受ける人も洗い出しておくと良いですね。次は「T」、そして「W」と「A」を決める。

「WCAT」はデザイン・アプローチの一つです。この思考の手順は、ある程度理想のシステムを考えてから、現実的なシステムを考えていくプロセスになりますので、理念や将来の姿なども共有できます。

なお、 同じデザイン・アプローチの一つ「SSM」では、「CATWOE」(キャトウー)を使います。「C」、「A」、「T」は「WCAT」と同じですが、この場合、「W」はworld view(世界観)を、「O」はowners(システムを止めることのできる人)を、そして「E」はenvironmental constraints(重要な外的要因、制約条件)を指します。

「WCAT」はこの「CATWOE」や「5W1H」も参考に、よりシンプルで使いやすく工夫した私オリジナルのシステム定義の方法です。ここぞという場面で使ってみてください。