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人事評価に対する誤解はさまざま

 自治体で初めて人事評価制度(勤務評定)を導入しようとすると、様々なうわさや憶測、風説等が流れ、導入の大きな障害になってしまうことがあります。思い違いや早合点、誤解が招いた人事評価への批判を取り上げ解説します。

1  「できる職員は見ていれば分かる。人事評価など必要ない。」
 人の評価は評価する人の数だけあります。情緒的な人は部下の努力している姿勢に重点を置いて評価するかもしれませんし、仕事に厳しい人は、努力することは当然と考え、仕事の結果に重点を置くかもしれません。人の仕事ぶりを評価する時には、評価する側の仕事に関する考え方や価値観に大きく左右されます。それぞれが異なる物差しを使っていたら公正な評価はできません。人事評価制度は組織の決めたルールや物差し(評価基準)を使って評価することで、恣意的な評価を排除し公正さを確保する仕組みです。

2  「公務員の仕事は数字では評価できない。」
 「数値目標」と聞くと、民間のセールスマンの売上目標を連想する人が多いようです。「セールスマンは、売上高や粗利益などの数値目標がありますが、公務員の仕事は客観的な数値では測れないのでは?」という声をよく聞きます。しかし、民間企業であっても、客観的な数値で評価しにくい仕事は多数存在します。例えば、人事部門や経理部門、研究員の仕事などを考えてみてください。これらの部門では、売上高などの数値目標はないかもしれませんが、「いつまでに、なにを、どのような状態までもっていくか」という目標は存在します。「9月までに○○調査を実施する。」、「今年中にトップから○○計画に関する承認を得る。」などです。

 このように、あらかじめ達成すべき状況を明確にすることができればその達成度を評価することができます。公務の仕事でも同じことが言えます。数値による目標設定が可能であればより客観的であることはまちがいありませんが、数値化できなくても、あらかじめ、上司と部下が話し合い、いつまでに、どうするかという目標を設定することは可能です。

 一般的な人事評価は、「業績評価」、「態度評価」、「能力評価」で構成されています。このうち、結果(できたかできなかったか)で評価するのは「業績評価」です。「態度評価」は結果をもたらすプロセスにおける態度を、そして、「能力評価」は発揮した能力のレベルを評価するものです。したがって、同じ仕事に対する評価であっても、結果だけで評価せずに、プロセスにおける態度や能力が評価されることになります。

 例えば、「目標までには達成できなかったが市民と十分話し合って納得の得られるものになった。」というケースであれば、期限までに間に合わなかったことについては問題ですが、結果の質やプロセスに対する評価は高くなることが予想されます。公務の世界にはプロセスが大切な仕事が多数あります。結果も大切ですが結果に至るまでの過程についても実際の行動・事実を確認し評価することが重要です。

3  「上司に気に入られると有利になるため、従順な職員が増える。」
 上司は好き嫌いの感情や先入観、風評などで評価してはいけません。人事評価制度を導入している民間企業や自治体では、評価する側の訓練(「評価者訓練」)を定期的に実施し、無意識のうちに好き嫌いの感情で誤った評価をしないよう徹底した研修を実施します。

 また、人事評価は、「人を評価」するのではなく、「人の仕事ぶり(活動)」を評価するものだということも確認しておく必要があります。人事評価は、性格、気質、人格や人の良し悪しで評価するものではありません。「上司を持ち上げるのがうまい」とか、「○○君とはウマが合う」といったことは、「人物評価」であって、仕事を評価しているとはいえません。このような誤った評価を避けるためには、同一人物に対して第一次評価と第二次評価を行うなど、複数の眼で評価して客観性を確保する仕組みを取り入れる必要があります。

 また、職員が上司に従順になるもう一つの原因は、評価の考え方、評価の基準等が一般職員に公表されておらず、上司の評価に異議を申し立てることができなかったり、上司の言うことに従っていれば有利になると思い込んでいるといったことが考えられます。評価の基準やルールをオープン化し、従順であることが必ずしも良い評価にはならないことや、自分の意見を述べたり、新たな課題に自ら挑戦する方か良い評価に繋がること、などをはっきりさせることが大切です。

4  「あの人には評価されたくない。」
 人事評価は、評価者の価値観で評価するものではなく、組織の決めた基準に基づいて評価します。評価者は組織の代理人であり、自分の価値判断で評価することはルール違反となります。しかし、そうは言っても、部下の仕事をよく知らない上司では、仕事そのものに対する理解不足によって評価が的確にできないことがあります。その場合には、専門的知識・経験のあるものが評価を行う、自己評価方式を併用するなどの工夫が必要になります。また、公正な評価であっても、過去のいきさつから、感情的なしこりがあり、評価を素直に受け入れることができないといったことも起こります。ただし、この問題は、人事評価制度の問題というよりも、管理職の資質や職場の人間関係に問題があるといえそうです。異動配置その他の適切な対策を打つことが必要でしょう。

5  「本当に公正に評価できるのか。」
 人事評価には、公正な評価に近づけるための様々な工夫があります。「責任感」、「積極性」、「判断力」、「企画力」など、いくつもの評価要素に分けて多様な視点から評価を行うのも、公正さを確保するための知恵の一つであると言えます。その他にも、評価者に指導記録をつけさせ事実に基づいた評価をさせること、評価基準を整備して共通の物差しで評価すること、第一次評価だけでなく第二次評価を行って恣意的な評価をチェックすること、などがあります。

 ただし、残念ながら、100%公正な評価はありません。同じ物を見てもそれぞれの見方は異なるように、行動事実の認識や評価基準の解釈その他に多少の相違が出てきます。また、被評価者は努力しているつもりでも、力の入れどころを間違えているために、上司の眼にはそうは映らないといったことも起こります。したがって、だれもが不満を持たない、全員が満足する人事評価制度というものは理念的には可能でも、現実にはありません(そのために、「成果のみで評価することが最も公正である。」という意見もあります。)。

 もともと人事評価制度は公正な評価を行うために、研究され活用されてきた手法です。恣意的な評価を避け、公正に近づけるべく工夫された制度と言ってもよいと思います。したがって、人事評価制度をより公正なものとするには、常に問題点を修正し、皆が納得できるレベルまで制度の質を引き上げることが重要となります。職場の実情に合わなかったり、納得できない部分があれば、単に人事担当部門を悪者扱いにするのではなく、自ら働きかけて制度を見直すようにしていかなければなりません。皆が「これならば納得できる」というレベルまで到達することが大切です。