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社会環境の変化と自治体経営に及ぼす影響

起草 2000年8月10日  改訂 2001年7月1日  改定 2002年10月7日

 平成12年4月に地方分権一括法が施行され、市町村も新たな地方政府の時代を迎えている。今後、自治体が地方政府として自主・自立の地域政策を実現するためには、それを方向付ける明確な戦略と、政策の展開を支える経営基盤を確立することが重要である。中でも、組織運営、人事政策等に関わるシステムの改革は、今後の自治体政策の優劣を決める重要な課題であるとともに、職員の意識・行動の変革、行政能力の向上を図るうえでも特に重要である。

 そこで、自治体を取り巻く社会環境への対応という視点から、自治体を取り巻く社会環境の変化と、自治体共通の経営上の諸課題を整理し、従来とは異なる新たな組織行動が求められている背景について述べることにする。

1 地方分権(自己決定領域の拡大)
 地方自治法の改正による自己決定領域の拡大は、市町村格差の時代、競合の時代の始まりでもある。今後は、政策の質的側面が重視されることはもちろん、自治体の政策も諸環境も、以前とは比較にならないほど変化のスピードが増すことになろう。
<自治体経営に与える影響>
 変化の早い経営環境では、それらの変化を機敏に察知して迅速な意思決定を行い、それを確実に実行することが求められる。そのため、自治体組織では住民ニーズや諸課題への対応の権限が末端の組織に委譲され、専門的な知識に裏付けられた迅速な決定ができるシステムへと見直しが進むものと予想される。またそれは同時に、個々の職員の情報収集能力や専門的処理能力、組織のマネジメント能力、政策に関する管理職の責任等が問われる時代になったことを意味する。

2 住民の関心の高まり(NPO、アカウンタビリティ、情報公開
 地方分権や財政問題に関する住民の関心の高まり、ボランティア人口の増大、NPO活動の進展等は、行政の主権者であり、サービスや規制の対象者であり、かつ協働者である住民の意識、行動が変化しつつあることを示している。
<自治体経営に与える影響>
 住民の意識、行動の変化に対応するためには、行政のあらゆる場面における住民との接点を再点検するとともに、住民の公共活動を含めた地域戦略、計画策定、政策の推進が求められる。政策の計画、決定、実施、評価の過程において情報を公開し、住民との事例や知識の共有化を図り、協働関係を構築する必要がある。
 また将来は、自治体の総合計画が公共活動を担う住民と行政の総合的な活動計画として策定され、住民と行政がそれぞれの役割を分担して共同目標を設定し、自治体の将来を構築していくことが予想される。

3 財政構造の硬直化
 地方財政は地方税収の落ち込みや、累次の景気対策のために地方債を増発したこと等により借入金が急増し、平成14年度末で195兆円の多額の借入金(対GDP比39.2%)を抱える見込みとなっている。また、近年の財政事情をみてみると、財政構造の弾力性を判断する各指標がいずれも悪化してきており、平成元年度には69.8%(全地方団体合計)まで低下していた経常収支比率は、平成6年度以降は80%を超え、平成12年度決算でも86.4%と、依然高い水準となっている。
<自治体経営に与える影響>
 財政構造の改善に向け、本格的な行政評価システム、投資効果分析、コストマネジメント等が導入される。また、自治体の信用が問われる時代となり、土地、建物の時価評価や財務諸表の公表、キャッシュフローの確保に備えた動き(普通財産の処分等)など、資産にかかわるマネジメントが重視されるようになる。
 また、財政の逼迫が合併を促進し、水道事業の経営改善、公共施設の利用効率の向上等が図られるとともに、自治体組織の合理化、正規職員の削減等が一段と進むものと考えられる。

4 任用形態の多様化
 平成14年度に、3年〜5年の期間を限って職員を雇用する「任期付職員」が法制度化され、非常勤職員、労働者派遣に加えて、雇用形態の選択の幅が広がることになった。また、臨時・非常勤職員の任用根拠に関する法改正の動き、民間の身分を保ったままでの官民交流の検討(「公務員制度改革大綱案」)等により、任用にかかわる大きな環境変化が予想される。
<自治体経営に与える影響>
 人材確保戦略が、新卒の職員を採用・育成する「人材育成型」のみでなく、労働市場から調達する「人材獲得型」へと徐々に変化する。中途採用や任期付き職員が増加することで、職務の高度化に対応するとともに、従来の職員の意識・行動の改革を促すことが予測される。また、増加する事務量への対応を図るため、臨時・非常勤職員の任用も増えることが予想される。今後は、全体に占める終身雇用型の職員の割合は大きく低下するとともに、任期付き職員や臨時・非常勤職員の有効な活用を図るための人事諸制度の見直しも進むものと考えられる。

5 地方公務員法の改正(公務員制度改革)
 平成13年12月に「公務員制度改革大綱」が閣議決定し、地方公務員においても、能力主義・成果主義を基本とした新たな人事制度へ移行することが明らかとなった。地方公務員法の改正は平成15年度、施行は18年度が予定されている。
<自治体経営に与える影響>
 自治体ではすでに、職員個々の能力を公正に評価するための人事考課制度の試行が行われている。これからは能力主義人事へ移行するための昇任昇格、給与、異動配置など、人事諸制度の本格的な見直しが実施され、さらに、専門職制度、キャリアコース選択制度など、就業意識の多様化に応じた個別主義的育成システムの導入も進むものと予想される。新人事制度が軌道に乗るまでの間は、肥大化した管理職層の削減などにより、職場の人間関係が不安定になることも想定されるが、改革の理念と対応力の差がその後の職員の意識、能力、行動パターンに大きな影響を与えることになろう。